· 

『リトル・マーメイド』②

前回のコラムでは、本作のあらすじから物語の導入部分について書きました。



今回から、大きく物語が動いていきます。



※以下、Disney+より2023年11月配信分を視聴した雑感を述べていきます。なお、「」内の表記は、読みやすいように少し漢字に直しています。





アリエルは自分の秘密基地である洞穴で



いつの日か 陸の 世界の果てまでも



その美しい声で力強く歌い上げます。

それはまるで、アリエルの伸ばした手が本当に外の世界を掴めてしまいそうなほど。



しかし、少しの間を起き、とても小さな声になりながら



ゆきたい…



そして、消え入りそうな小さくも深いため息を吐きます。



はぁ…


人間の……世界……へ……



美しい声と儚い溜め息だけが、この宝物だらけの自分の部屋にこだましています。



歌声が響き渡るなか、アリエルは、自分の秘密基地から見える海面、その先にある人間界を臨んでいます。



このときのアリエルの切ない表情、羨み寂しそうな視線が、何とも胸を苦しくさせます。



わたしは自由に生きたい

わたしは何故自由でないのだろう

わたしがこの姿だから?

わたしの想いは誰にも分かってもらえない

そういった問いかけにも感じられます。



自分の容姿や能力、家系や生い立ち等、様々な事情があって、どう頑張っても自分の思い通りいかないことってありますよね。



一見、何不自由なく周囲から憧憬される人も、実はいろんなことを抱えて生きている、ということもあるのだと思います。



世の中では世間体や一般常識など、大多数の基準を自分の基準にあてはめて使うことは多々ありますよね。確かにそれは、この世界が回っていくために必要なことでもあるので、その基準を使うことが求められ、望ましいとされるでしょう。



しかし、その大多数の基準に飲み込まれてしまい、本当の自分を見失ってしまうのは、あまりにつらいです。



アリエルも、人魚界では正しい生き方なのかもしれませんが、自分の正しい生き方ではないので、こうして苦悩してもがいているのではないかと思います。




アリエルの願いが泡のように消えていきそうなとき、海面の方から何やら音が聴こえてきます。



アリエルは導かれるようにその音の方へ泳ぐと、エリック王子の一行と出会います。



この船は、本編の冒頭に出てきており、エリック王子の誕生日を祝う航海中でしたが、そのセレモニーも終盤を迎えていました。もうじき城に戻るところだったようです。



アリエルは船内を恐る恐る覗き込むと、そこには夢にまで見た人間たちがたくさんいました。生まれて初めて見る人間たちに、アリエルはとても興奮しています。人間の脚、人間の奏でる音楽、軽快に踊る姿を目にします。そしてそこには、何かよく分からない毛むくじゃら。



その毛むくじゃらは、すぐにアリエルに気づき観察すると、二人はすぐに打ち解けます。



この毛むくじゃらはエリック王子の愛犬、マックス。どうやらとても友好的で、見かけの違うアリエルでしたが、何故かすぐに気に入ったようです。



愛犬マックス、海鳥のスカットル、アリエルの友魚フランダー、アリエルのお目付け役の蟹セバスチャンは、この物語の鍵となるキャラクターたちです。



このキャラクターたちは、ある共通点がありますが、何か気づかれますでしょうか?

(物語を読み進めていくと分かっていくかと思いますので、今は伏せておきます。)




さて、このあとマックスはなかなか良い役をしてくれます。



マックスはアリエルの視線をエリック王子に辿らせて、エリック王子に注意を向けさせます。



アリエルは、エリック王子を見た瞬間、恋に落ちます。



このうっとりとするアリエルの表情はとてもよく描かれています。見つけた瞬間、雷に撃たれたかのような驚き顔になり、すぐに口元や目元が緩み、愛おしそうに見つめます。これは、愛するものを見守るまなざしです。



アリエルはしばらくエリック王子に見惚れていると、エリック王子は婚約相手を探していることも知ります。




そして、ここから大きく物語が動き始めます。



嵐です。



黒い雲が近づき、船の上をすっぽりと覆うと、雨が溢れ始めます。ぽつぽつと降り始めたかと思ったら、次第に強くなる雨。



体がもっていかれそうなほどの風が吹き、海が唸り始めます。大きな波は、この船を容赦なく飲み込もうとします。



空も轟き始め、いよいよ嵐が到来してしまいます。



エリック王子も船員も必死に船の舵を取り戻そうしますが、大変厳しい状況です。



そのようなピンチに、さらにピンチが重なります。



稲妻が船体に火をつけて、炎が燃え上り、じわりじわりとエリック王子たちを追い込んできます。



そしてさらに、座礁してしまう船。



もうピンチの畳み掛けです。これはたまったものじゃないです。



座礁した反動で船員は振り落とされてしまいますが、救命ボート等で一命を取り留めます。



エリック王子も脱出しようとしたそのとき、愛犬マックスが船内の炎の先に取り残されていることに気づきます。



エリック王子は危険を顧みず、急いでマックスの救助を試みます。マックスは助けられたものの、何とエリック王子自身の足が船体に挟まれてしまい、身動きが取れなくなります。



最悪なことに、迫りくる炎が火薬に引火して、船は爆破してしまいました。エリック王子は海に吹き飛ばされます。悲劇の連続です。



もうダメかもしれない



誰しもがそう思うところでしょう。



しかし、主人公アリエルは絶対に諦めない人物です。荒れ狂う海を懸命に探します。



幸いなことに、アリエルはエリック王子をすぐに見つけることができました。そして、自分よりも重いエリック王子を引っ張り揚げて、波に逆らいながら陸を目指そうとします。




船上セレモニーは夜に行われていましたが、陸地に連れ揚げた場面では、朝日が昇り始める時間になっていました。



アリエルは一晩中、この広い海のなかを進み、陸地を探したのでしょう。



アリエルの精神力も凄まじいですが、何がこのパワーを支えたのでしょうか。



陸地に引き揚げて、エリック王子を心配そうに見つめるアリエル。アリエルは海の住人ですから、長い時間、地上にいるのは酷です。しかしそれでもなお、エリック王子のそばに付き添っています。



きっと、これが答えなのでしょうね。



アリエルはエリック王子の息つぎが見えた途端、そっと触れながら、優しい吐息のように歌いかけます。



あなたのそば ずっと 離れない そばにいたいの


微笑みかけて わたしに



昇りゆく暖かな朝日に照らされながら歌い続けます。少しずつ強くなる歌声は、アリエルがエリック王子に伝えたい言葉だと分かります。



歩いて 走って 日の光あびながら

 あなたと ふたりの世界で



アリエルはこれまで、自分一人の自由な生き方を望んでいました。しかし、エリック王子と出会い、この人と生きたい、そう思うようになったと感じられます。



エリック王子はその優しい歌声で目を覚まし、アリエルをその目で捉えようとしますが、うまくいかず。アリエルはマックスたちの声が聞こえたため、すぐに海に戻っていきます。



とてもドラマチックです。困難を乗り越えた二人は、自然と惹かれ合っていきますよね。



余談ですが、マックスはもうこの時点で、アリエルの存在に気づいているのが分かります。マックスは口ぎりぎりまで海の中に浸かってでもアリエルを探し、それをエリック王子に教えようと吠えています。



愛犬マックス、ほんとに良い役担っていますね。



一方、お目付け役のセバスチャンは、海の掟を破ってしまったアリエルと自分を守るために、これは無かったことにしようとします。



が、しかし。ここで突き進むのがアリエルです。



何かが はじまる


変わる わたしの世界が


必ず 会いに行く あなたに



先ほどの優しい歌声ではなく、力強くたくましい歌声で宣言します。その宣言を後押しするかのように波の飛沫が上がり、しかし一筋縄ではいかないかのような向かい風も描かれています。



ちなみに、この部分の日本語字幕では、「きっと夢が かなう」と表記されています。アリエル、叶える気満々ですね。



今回記している「」内のフレーズですが、どちらも『パート・オブ・ユア・ワールド』(英題『Part of Your World』作曲Alan Menken)のメロディーで歌われています。



アリエルの気持ちだけでなく、願い、意志がとても分かりやすくイメージされていると思います。



アリエルの諦めない、絶対に夢を叶えるんだ、という願いのパワー、すごいですよね。結構強烈です。でも、この情熱的な力強さが、願いを叶えるために必要なのことの一つかもしれません。





さて次は、物語を煽りまくるヴィランズが登場し、またまた大きく物語が動いていきますよ🐙🔱