前回までは、人間の世界に憧れる人魚姫アリエルが、ひょんなことから人間エリック王子と出逢い、アリエルがこの恋を叶えようと宣言するシーン書きました。
さて、今回は…
いよいよヴィランズ(villains)の登場です!
※以下、Disney+より2023年11月配信分を視聴した雑感を述べていきます。なお、「」や“”内の表記は、読みやすいように少し漢字に直しています。
ディズニーでは、少し前からヒーローの対の存在となる、悪役・悪者が何故か大人気です。
(私の仮説では、TDRでハロウィーンを盛り上げようとヴィランズをメインキャラクターとしたパレードやショー等を定期開催していること、実写映画『マレフィセント』の影響、これらの結果から新たな経済戦略が図られたこと、と推察しています。)
本編でもその妖しい不穏な影が、じわりじわりと確実にアリエルに迫ってきています。
アリエルを狙うのは、海底王国から追放された海の魔女アースラ。そしてその手下、ジェットサムとフロットサム。アースラはタコの人魚、ジェットサムとフロットサムは双子のウツボです。彼らの片目は非対称となるように黄金色で、彼らの目を重ね合わせると、アースラの水晶玉に見たものを映し出します。
アースラが何故追放されたのか、本編では言及されていませんが、スピンオフ作品ではそれぞれ違った形でアースラのその愛と憎しみが表現されています。
本編では理由がはっきりしないものの、アースラのその根深い憎悪が恐ろしいほど表現されています。これほどの強い気持ちに至らしめたのは、相当の出来事があったと想像されます。
ファンタジー作品ではしばしば、良き者と悪しき者といった対になるキャラクターを登場させます。
アースラは、悪しき者としてその存在感を放っています。大きな黒色の胴体と8つの足、薄紫色の皮膚に濃い化粧、赤く鋭い爪と、いかにも悪そうな感じ。
そして、魔法も使えます。本編で魔法が使える者は、アースラとアリエルの父でこの大海原を治めるトリトン王だけです。
ディズニーアニメーションでは、良き魔法使いがキー・パーソンになることが多いですが、今回はそうではありません。この時点で、もう嫌な予感しますよね。
アースラはアリエルを使って、自分がこの海の支配者になることを目論んでいました。アースラは手下たちに、アリエルを見張るように指示して、好機が来るまで待っています。
そんなことは全く予期しないアリエルは、恋に溺れています。
お目付け役の蟹セバスチャンは、そんなアリエルを諫めようと『アンダー・ザ・シー』(英題『Under the Sea』)を歌いながら、アリエルを海の世界に引き留めようとします。
ちなみに、この歌のフレーズ終わりは下がるように歌われています。歌唱法のフォールやピッチベンドを多用していますが、これは海の底の素晴しさを説いている歌なので、作曲家アラン・メンケンが意図的に作っていると思われます。
そして、歌中で陸のことを指して“やだねー”と歌う小節は音階が上がります。セバスチャン、本当に陸はやめてくれ、と訴えたいのでしょうね。
もう気づいた方もいらっしゃるかと思いますが、本編のメインソングでアリエルの心情を表す『パート・オブ・ユア・ワールド』のフレーズのほとんどは、上がるように作られています。アリエルの迷いや悩みの部分は下がっている、あるいは同じ音階というのも確認できます。歌一つ見ても考察し甲斐がありますね。
セバスチャンは滾々と海の素晴しさを歌いますが、アリエルはフランダーと、どこかへ行ってしまいました。セバスチャンは気づかず歌い続けます。セバスチャンらしいです。
アリエルはフランダーに呼ばれて自分の秘密基地へ行ってみると、エリック王子の銅像(船上セレモニー中に船員から誕生日プレゼントとして贈られていたもの)が待っていました。
フランダーは海底で見つけた銅像を運んできたようです。
あの小さな魚、フランダーだけの力ではとても難しそうですので、誰か他の仲間と持ってきたのでしょう。どちらにせよ、フランダーは友達アリエルのためを想って贈りたかったのが分かります。
しかし、喜びも束の間。
秘密基地には父、トリトン王が。
セバスチャンがうっかり口を滑らせてしまったのです。トリトン王は静かにアリエルを叱ります。
事実確認をする辺りは理解できますが、映像ではアリエルの言葉を最後まで聞かずに、一方的に責め立てます。しかも、全て正論で。
このシーン、とても胸が苦しくなります。
正論で返され続けると、どんな人でも悔しいですし、何とか反論しようとしたくなります。
ではそれが、まだ言葉にすることが難しい子どもの場合は?
その多くは、強い言葉を使ったり、実力行使に出たりします。だって、自分の言葉を最後まで聞いてくれないのですから。
自分の気持ちを伝えようとアリエルは必死でした。ちゃんと言葉で、しかも落ち着きながら話し合おうとしました。
しかし、トリトン王は正論でねじ伏せました。
ここが、この親子の分岐点だったかと思います。
もしも、トリトン王が落ち着いていたら?アリエルの言葉を最後まで聞いていたら?
これらは親が子どもに示すことができる、誠意の一つだと思います。たとえ反対の意見だったとしても、お互いが譲り合えるように、合意形成を図ろうとする姿勢を見せることから、話し合いは生まれると思います。
端から否定してくる人に、自分の意見は言いたくないですし、相手の意見も受け入れたくないですよね。相手を変えるには、まずは自分から変わる必要があります。
アリエルはとことんトリトン王に反抗します。こうなると、お互い引っ込みつかなくなります。
トリトン王はすっかり冷静さを失い、アリエルの宝物たちを次々に壊していきます。
ここも大変胸が痛みます。パパ、酷すぎ。
アリエルの願いの歌声が響いていたあの秘密基地は、今や、その願い諸共打ち砕く音と、アリエルの悲鳴が響いています。
トリトン王、極めつけはエリック王子の銅像を粉々に…。アリエルの最後の震え声の「やめて!」、見るに堪えません。
アリエルの涙を見て、一瞬、トリトン王は我に返ったような表情を見せますが、そのまま去ってしまいます。
たとえ相手が間違っていて、こちらが正論で絶対的な正義だとしても、こうした圧倒的な力で押さえつけて、めためたにしてしまうのは、その人の心も人生も粉々にします。
こうしたやり方はとても賛成できません。何も生まないですし、何よりもお互いがとても傷つきます。思い合っていた関係だったのに、どうしてこんなに傷つけ合ってしまうのでしょうか。
すれ違いが、大きな溝をつくり、アリエルとトリトン王を隔たせてしましました。あまりに悲しいです。
完膚なきまでに叩きのめされたアリエル。心身ぼろぼろです。
こういうときに悪しきものは手を伸ばし、傷ついた者を優しく撫でて、その傷口を道具として利用しようとします。
そう、アースラと手下たちの登場です。
ばらばらに砕き散った心、そのわずかな欠片の隙間に入り込むのが、悪しきものたちです。
弱り疲れ切ったとき、彼らの囁きはとても魅力的で、この世界を変える最後のチャンスのようにさえ感じられてしまうものです。
アリエルもその蠱惑的な話に縋りつこうとします。
アースラの曲、『哀れな人々』(英題:『Poor Unfortunate Souls』)は、そのタコの足のようにねっとりじっくり絡みつき、真綿で首を絞めるかのように、アリエルを追い込みます。
アースラの人を追い込む誘い文句、演技力がすごいです。まさに、口八丁に手八丁。さらにすごいのが、契約に関して嘘はついていないところ。ちゃんと注意事項も事前説明もします。けれど、考える時間を与えず、抜け穴がたくさん。文章に起こすと、目で追えないほどの注釈がつきそうです。
心身弱り切ったとき、理性も判断も鈍りますよね。この隙間を突いてくるのがヴィランズ。勢いよく契約書にサインを求めて、
“さあ 歌って”
アースラは最後の仕上げをします。
アリエルはこの勢いのまま、自分の声と引き換えに、契約を成立させます。ここでアリエルが歌うのも『パート・オブ・ユア・ワールド』、その後には『哀れな人々』が流れます。アリエルの運命とアースラの運命が交差していくのを、音楽で表現していることが分かります。
アリエルの尾ひれは二股に分かれ、エラが無くなります。この深い深い海の底で。
アースラの目論みは、まずこの深い海の底から海面まで自力で脱出できるわけがないだろう、あわよくばここで泡となればいい、そんなふうに思っていたかもしれません。
幸いにも、アリエルにはフランダーとセバスチャンの仲間がいたので、二人が引き揚げて何とか海の上まで行くことができました。
海面に上がると、アリエルは思いっきり、陸の世界の空気を吸い込みます。
今回も大きな展開がありました。
陸に上がったアリエル、どんな気持ちで世界を見るのでしょうか。
次回は、アリエルのドタバタな陸上生活が始まります🩰